EMIS(広域災害救急医療情報システム)とは?機能や運用について解説
公開 カテゴリー: その他の災害に関するコラム
EMIS(イーミス)は広域災害救急医療情報システムの略で、災害時に病院の被災状況を共有し救護のサポートを提供するサービスです。インターネット上で得られるEMISのデータには、一般市民向けと医療関係者向けのものがあります。
実際に起こった大規模災害を教訓に構築されたEMISのデータは、できるだけ多くの人に活用されることで災害時に有用な情報となり得るでしょう。この記事では、EMISができた背景、機能や共有できる情報、運用の流れなどを分かりやすく解説します。災害時に活用できるよう参考にしてください。
目次
1EMIS(広域災害救急医療情報システム)とは
2EMISの主な機能・共有できる情報
3災害時にEMISを運用する流れ
4広域搬送を行う流れEMISの今後の課題
5EMISは一般市民にとっても医療従事者にとっても重要
EMIS(広域災害救急医療情報システム)とは
Emergency Medical Information Systemの略であるEMIS(広域災害救急医療情報システム)は、厚生労働省が主導する全国共通の災害医療情報バックアップ体制です。
大規模災害発生時には、人命救助や救援のために正確な情報を素早く把握しなければなりません。EMISの目的は、災害発生時に医療機関や関連団体を始め、消防や保健所、自治体などから情報を得て、ネットワークを築き迅速に対応することです。
EMISでは、すべての都道府県が24時間利用できるWebサイトを活用して災害医療情報を公開しています。災害時において、各都道府県はEMISを活用して各病院の情報を集めます。もしシステムが使えない場合は、全国から情報を集めている広域災害救急医療情報システムバックアップセンターに接続することで情報を得られます。EMISは、急な災害時に患者の救急搬送など医療体制を組む際に役立つシステムです。
EMISは阪神淡路大震災に学び開発された
EMISが開発された背景には、1995年の阪神淡路大震災発生時に起こった医療ニーズと医療資源のミスマッチがあります。マグニチュード7.2の阪神淡路大震災では、急増する医療の需要がある一方、病院自体が被災しているケースや1カ所の病院に多くのけが人が救急搬送されるという状況が発生しました。
阪神淡路大震災の死者や行方不明者は6,400人、負傷者は43,000人(※1)をともに超えています。阪神淡路大震災では、地震発生からの初期医療システムがうまく機能しなかったことが大きな課題となりました。仮に通常の医療体制が機能していれば、500人ほどの災害死が避けられていた可能性も指摘されています。(※2)
この震災は、災害発生時には行政機関や消防などの救助活動とともに、医療関係者も連携していくべきという教訓を残しました。いかなるときもベストを尽くそうとする医療従事者と医療ニーズはバランスを確保することが必要です。正確で必要な情報を迅速に伝えるために、EMISは阪神淡路大震災に学んで開発されました。
(※1 出典:阪神・淡路大震災の被害確定について(平成18年5月19日消防庁確定))
(※2 出典:厚生労働省DMAT事務局)
EMISの主な機能・共有できる情報
EMISの主な機能や共有できる情報は、一般市民向けと関係者向けの2種類に分かれています。一般市民向けの機能・情報には、災害救急医療に関するお知らせや、医療機関検索など一般向け各種情報が分かるものです。
関係者向けには、専門性の高い災害医療に関する機能や情報が提供される点が特徴で、災害医療情報の入力や検索、集計などもできます。また、災害に被災した自治体から厚生労働省へ通報や問い合わせも可能です。
ここでは、2種類の主な機能や共有できる情報について解説します。
一般市民向けの機能・情報
一般市民向けとして公表されている情報は基本機能として、災害時の医療機関の被災状況や受け入れ患者数などが共有できます。一般市民向けの主な機能や共有できる情報は以下の通りです。
・災害救急医療に関する一般市民向け各種情報の提供
・被災した各地域の災害・警戒情報
・条件を指定した医療機関の検索
・災害医療全般についてのリンク集 (災害ライブラリ、災害救急リンク集など)
・災害対策のマニュアル・対応事例
・地震や火災時に活用できる災害の知識
2020年2月には、EMISによって新型コロナウイルス感染症患者の搬送や警戒地域などの情報も共有していました。一般市民向けの情報は、いつでも誰でもEMISのホームページで確認できます。
予期せぬ災害が急に起こっても、普段から情報を得て備えておくと、いざというときに役立つことは間違いありません。EMISが身近なところで活用されていることを知っていると、その機能を十分に活用できるでしょう。
関係者向けの機能・情報
EMISの関係者向けの機能・情報は、一般市民向けよりも災害医療に特化しています。医療機関の関係者向けに公開されている機能や情報を利用するには、ログインするための機関コードやパスワードが必要です。災害時に関係者向けの機能や情報を活用するには、平常時にEMISに登録しておかなければなりません。
関係者向けのEMISの主な機能や情報は以下の通りです。
・災害医療情報の入力・検索・集計
・災害救急に関わる関係者向け各種情報の登録・提供
・医療機関情報の提供
・災害時における速報
・情報共有化機能(メーリングリスト・メールマガジンなど)
・機関情報の管理機能
・システム運用状態の切替
・災害時における通知、連絡などの配信機能
・被災自治体から厚生労働省への通報・問い合わせ
・DMAT(災害派遣医療チーム)の派遣・活動状況の確認
医療関係者は普段からEMISへの理解を深め、施設内でパスワードなどのログイン情報を共有しておくことも大切です。限られたEMIS担当者だけで把握するのはなく、複数の職員で共有・管理するとよいでしょう。
災害時にEMISを運用する流れ
出典:広域災害救急医療情報システム システム概要
災害時におけるEMISの主な役割は、広域搬送と支援(DMAT派遣)に大別されます。
広域搬送は、関係者向けの機能を使って災害発生直後の情報共有を行い、被災者のけがの状態に合わせて病院へ搬送するものです。支援(DMAT)派遣では、被災直後の救護や医療活動について特別な訓練を受けたDMATを、被災状況に応じて適切な場所へ派遣します。DMATは現役の医師や看護師などからなる専門家集団です。
災害で被災しけがをした場合に、急性期である被災直後に適切な医療を受けられるかどうかで、被災者の生存率は大きく変化します。EMISによって被災直後の情報を共有すれば、被災者を適切な医療機関に搬送できるため生存率の向上が期待されています。
広域搬送を行う流れ
EMISの広域搬送を行うためには、まず、被災地の最新情報を自治体や医療機関、消防などの各機関へ提供します。中でも特に急を要するケースには、必要な医療情報を緊急情報として迅速に集約し、関係機関へ提供します。合わせて、急性期以降の被災者に関する詳しい情報も集約して提供されます。
各都道府県の広域災害救急医療情報システムとして、全国共通の災害医療情報を集める機能も広域搬送を行う流れの中では重要です。併せて医療機関ごとの災害医療情報を集めて、被災者の広域搬送などの医療体制も整えます。
広域災害救急医療情報システムには、広域災害バックアップセンターとして東日本データセンター・西日本データセンターの2つのセンターがあります。東西のセンターは厚生労働省や県センターと連携し災害情報を把握し、一般市民向けに情報を提供することが目的です。被災地域だけでなく、被災していない地域に対しても医療機関へ患者受け入れの照会などを行います。
広域災害バックアップセンターでは、県センターなどと連携して信頼できるネットワークを構築することを目指しています。災害時のみならず、平時でも災害救急医療に関するポータルサイトとして、広域搬送を行う流れの中で重要な役割です。
DMAT(災害派遣医療チーム)とは
DMAT(災害派遣医療チーム)は、災害発生時における急性期の活動を目的とした、特別な訓練を受けた医療チームです。災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team)の頭文字からDMAT(ディーマット)と名付けられました。
災害発生から48時間以内に活動できる機動力を持ち、医師や看護師などの医療従事者で構成されます。阪神淡路大震災で不十分だった医療体制の反省点を活かして厚生労働省が発足させました。
DMATは登録制で、通常時にはメンバーは指定医療機関で医療に従事しています。災害が発生して派遣要請があった場合に、被災地へ出動し救助や医療を実施するシステムです。平時でも被災地の病院支援や、想定される大震災に備えるた
DMATに派遣要請があった場合は、始めにEMISを活用した情報の収集・発信、広域搬送を実施。けがをした被災者の受付トリアージとして、重症・中等症・軽症、予後不良などのレベルに応じた医療支援を提供し、入院患者の管理や手術支援を行うことも重要な業務です。他にも、被災地の救護所や現場対応など、必要とされる支援を提供し、災害対策本部によってDMATの支援内容を各医療機関へ知らせます。
EMISの今後の課題
EMISは災害時に必要な情報や医療支援を素早く提供できる優れたシステムですが、一方で運用に関しては改善すべき課題も指摘されています。
課題の一つとして、システムのホームページのデザインや操作機能が、緊急時などに操作しにくいと感じられる点が挙げられます。急な災害時にこそ機能すべきシステムのため、見やすいデザインで高い操作性がなければ貴重な情報が埋もれかねません。平常時にEMISシステムを改善して、誰もが使いやすいものにしておくことが急務です。
また、厚生労働省がまとめた過去の災害事例では、システムに登録していない病院があった、病院が被災状況を入力しなかった、病院の給水や電力事情を未確認だったという報告が上がっています。さらに、そもそも災害による停電でシステムを使うためのインターネット回線やパソコンが使えなかった、という事例もありました。
多様な技術が進む現代に合うような使いやすさの工夫が求められていることも課題の一つです。例えば、e-ラーニングによる研修やトレーニングモードの装備、回線がなくても使えるスマートフォンアプリの開発などが挙げられます。また、災害に備えてEMISへの登録を義務化することや、平常時から医療機関の貯水槽や自家発電の有無を入力することも必要です。
EMISは一般市民にとっても医療従事者にとっても重要
EMISは国が主導する全国共通の災害医療情報システムです。災害発生時に各自治体や医療機関、消防などから情報を得て連携し、迅速に人命救助を行う目的で創設されました。すべての都道府県が常時利用できるWebサイトに災害医療情報を公開しています。
何度も見直しが行われているEMISですが、現代社会に合うよう操作性などを追及することも課題です。EMISは災害時の情報を迅速に活用できるシステムとして、より利便性の高いシステムへと変化していくことが期待されています。
普段からEMISのサイトを閲覧しておくと、いざというときに活用できます。EMISでは一般向けに公表されている情報もあるため、災害や緊急事態があったときに情報収集をする手段の一つとして念頭においておくとよいでしょう。
記事監修

株式会社パスカルは法人向け安否確認システム「オクレンジャー」をご提供し、災害時の正確な安否確認と迅速な緊急連絡を実現しています。
システム開発における30年以上の実績と知見をもとに、使いやすく質の高いサービス提供を続け、140万人以上のお客様にご利用いただいております。企業、病院、官公庁など幅広い企業のBCP対策に貢献し、皆様の安全に貢献しております。
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